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全ての人が笑顔になれる、奇跡の村を創る 。徳島・木頭から地方創生に向けた挑戦。

KITO DESIGN HOLDINGS株式会社
代表取締役社長 藤田 恭嗣

更新日:2022年11月02日

徳島県那賀町木頭生まれ。1994年大学在籍中に創業。1996年に有限会社フジテクノを設立し、1999年に株式会社メディアドゥを設立。2006年より電子書籍流通事業を開始し、2013年に東証マザーズ上場、2016年東証一部へ市場変更(現在は東証プライム市場)。CEOとして経営戦略、特に新たな企業価値の創出を行っている。
徳島での取組みとしては、2013年に木頭ゆずの栽培・加工品販売会社である株式会社黄金の村、2017年には木頭で地方創生を行うKITO DESIGN HOLDINGS株式会社を設立。また、起業家支援を目的とした一般社団法人徳島イノベーションベース(TIB)を2020年に設立し、代表理事に就任。2022年に徳島県ゆかりの企業23社が出資するプロバスケットボールチーム運営会社・株式会社がんばろう徳島を設立し、代表取締役に就任。様々な取組みを通じて、起業家としての地域活性に取り組んでいる。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

全ての人が笑顔になれる、奇跡の村を創る。

KITO DESIGN HOLDINGS株式会社は、徳島県那賀町木頭地区で2017年に設立した会社です。私は東京で株式会社メディアドゥ(電子書籍流通大手/東証プライム市場)の経営をしていますが、自分自身が生まれ育った故郷・木頭に貢献したいと思い、地方創生に関わる事業を展開しています。

木頭は人口1000人程度の限界集落ですが、魅力にあふれた場所です。那賀川の源流、季節により表情を変える山々、伝統的な暮らしを丁寧に営む人々。豊かな大自然や文化が残るこの地から、地方創生の先進事例を作り上げていき、木頭で暮らす人、訪れる人、全ての人が笑顔になれる、奇跡の村を創造することをミッションとしています。

KITO DESIGN HOLDINGSでは、現在3つの事業が柱になっています。一つ目は、地元の基幹産業「木頭ゆず」の栽培・加工販売を行う「黄金の村」。二つ目は、ハイエンドなグランピング施設や研修棟施設、温泉やレストランも完備した山の中のリゾート「CAMP PARK KITO」。三つ目は、地域の利便性向上、未来の主役である子供が楽しめ刺激を受けられる場所、観光インフォメーションの発信地、という目的でオープンした「未来コンビニ」です。

その他、木頭ゆずオリジナルスイーツショップ「YUZU CAFE Kitchen」や、閉館した旅館を改修したゲストハウス「Next Chapter」の運営など多岐にわたる事業を展開しています。今後も更に新たな施設計画も進めており、地方創生の先進事例になるべくチャレンジを続けています。

なお、KITO DESIGN HOLDINGS は持株会社であり、グループ全体を牽引する役割を担っています。グループ全体の戦略を考えて、推進する。そして、必要に応じて行政や民間企業などとの外部連携をしていくことをミッションとしています。

事業会社は、その会社に合ったミッションを遂行していきますので、黄金の村であれば「木頭ゆず」のこと、「CAMP PARK KITO」であれば「キャンプ」や「豊かな自然体験」のことを突き詰めて、顧客への提供価値を最大化しています。

社名の「DESIGN」に込められた想い。

限界集落である木頭には、様々な課題があります。そこで、例えば、宿泊するところが無いから宿泊所をつくる。人が来ないから人が来る仕掛けをつくる。このように、課題に対する「対策」をしていくことで、課題は徐々に解決していきます。

ただ、これを続けても、永遠に生まれ続ける課題に対策し続けるだけで、一本軸の通った方向性が見えなくなる可能性があると感じていました。やはり私たちは「何のために」この事業をやるのかという視点が重要です。私たちは、「木頭」全体のあり方を変えていく、つまり「木頭をデザインする」ことをやりたいと考えました。

「デザイン」という言葉には、バス停や街灯のデザインを変えるなどのディテールデザインのことも指しますし、この町の産業政策や経営戦略まで、地域の人達と一緒にデザインしたい、未来を描いていきたいという想いがあります。

未来を描く上で、何を基点にするのか。私は、30年後の未来の主役となる子供たちに対して、大人が未来をどれだけ設計できるかが大事だと考えています。将来の木頭の子どもたちにどのような活躍をしてほしいのか、どんな村にしていきたいのか。木頭全体のことを理想的な将来から逆算することで、高い視座を持ちづけることができると考えました。

大きな流れを作り出すには「設計」が必要です。設計がなければ、場当たり的になってしまい、地方創生という難題には立ち向かえません。

例えば、未来コンビニは不便の解消だけでなく、未来を描くことができた取り組みだと思います。「買い物の不便」の解消だけにフォーカスしていたら、未来コンビニの事業は生まれませんでした。地域の利便性向上だけでなく、未来の主役である子供が楽しめ刺激を受けられる場所、観光インフォメーションの発信地、という三つの目的を持った時、それらをかなえるため「世界一美しいコンビニ」というコンセプトが生まれました。

オープン後、実際にいくつもの国際的なデザインアワードで高い評価を頂くことができ、それが人の流れを変え、2年間で約14万人の方々に訪問してもらえる場所になりました。何もない所から知恵を絞って、将来のあるべき姿から逆算してデザインしていく。それが社名に「DESIGN」を込めた私の想いです。

「木頭ゆず」ブランドの確立へ。

木頭での事業は、私が父親の思想に大きな影響を受けて、「木頭への最大の貢献は何か」を考え抜きスタートしました。地元・木頭にいない私が取り組む事業なので、木頭の皆さんの中でも、理解してくれる人・理解してくれない人など賛否両論ある前提で、成果を出すには時間がかかると覚悟していました。

また、木頭での影響範囲や課題の大きさを考慮して、まずは木頭ゆずの事業からスタートしようと、2013年に「黄金の村」を立ち上げました。

当時、ゆず農家さんの収入は柚子の木1本2500円程度でした。これを仮に柚子の木1本で1万円にできれば、農家さんの安定的な収入源となり、地域の根幹ビジネスとしてサスティナブルになると考えました。そのため、木頭ゆずの付加価値を上げていくことが重要で、「木頭ゆず」ブランドの確立が課題でした。

もともと、木頭ゆずは柚子栽培に適した風土で育っているため品質が高く、その苗が木頭から全国に広がっていったという歴史があります。当時は、栽培まで18年かかると言われる柚子の農産業化は不可能と言われていました。しかし、それを3~5年で収穫できるような画期的な柚子栽培方法を編み出したのが、この木頭という小さな村でした。

この知られていない「木頭ゆず」のストーリーを形にして、『奇跡の村ー木頭と柚子と命の物語ー』(2020年、麻井みよこ著/角川書店)という本も出版していただきました。このような書籍やSNS等のネット媒体、リアル店舗での体験等を通じて、木頭ゆずのストーリーに共感いただける方も少しずつ増えてきました。

ここまでの取り組みに約10年かけてきましたが、今後も「木頭のゆずは別格だよね」と思っていただけるよう、引き続き新製品開発や品質向上にも取り組んでいきます。

安心して戻って来られる故郷に。

私は、おじいちゃん・おばあちゃんと住むこと、つまり、3世代で住むことの価値が今、徐々に見失われていると感じています。私自身は3世代で一緒に暮らして育ちました。おじいちゃんは早くに亡くなりましたが、おばあちゃんが元気でいてくれて、父・母とともに3世代で暮らすことができました。

そして、多くの愛情を受けながら様々なことを学びました。また、家族だけでなく、近所の人たち、同級生や先輩や後輩、皆がいて今の私のアイデンティティーが形成されました。私は、アイデンティティーというのは本質的には生まれ育った場所にあると思っています。いずれは私の子供も木頭で育てたいと思っています。

現代は、就職や進学で地方から都会へ出ていき、そのまま都会で子育てをするケースが多いですが、子供たちがおじいちゃん・おばあちゃんと過ごせずに育つことは、私の価値観だと「もったいない」という印象です。自分文脈では語れるが、そこに血筋文脈はなく、地元への土着・愛着・愛情などの文脈でも語れない、アイデンティティーを忘れてしまった「根無し草」っぽさを感じてしまいます。

もちろん都会で働き・生きることの良さもありますが、都会でどれだけ頑張っても、そこで流れる人間関係は地方とは違います。私の独特の感覚かもしれませんが、都会に出て働き・生きることは「PL思考(※)」であり、短期的でフロー型のイメージです。

一方、地方(地元)で生きることは「BS思考(※)」であり、長期的でストック型というイメージです。人の幸せや成長に大きな影響を与える「BS思考」で人間関係を深められることが、地方に暮らし3世代で住むことの良さであり、財産だと思います。

ただ、都会に出た人に「地元に帰っておいで!」と言っても、生活面の安心がないと帰って来られません。木頭に帰ってきて、将来を憂うことなく生活できるイメージが持てるかどうかが大事だと思っています。仮に柚子の木1本1万円の価値、それを約1000本栽培ができるとすれば収入源としてサスティナブルな状態となり、ゆず農家としても暮らしていくイメージが持てるはずです。

仕事の心配がなければ子供たちが戻って来られるようになり、子供たちが戻ってくることで、おじいちゃん・おばあちゃんも一緒に幸せに暮らすことができます。だからこそ、地方活性化・地方創生では、安定した収入を上げられる仕組みをつくり、子供たちが帰って来られるようにすることが大事だと思っています。

※PL(Plofit & Loss Statement:損益計算書)、BS(Balance Sheet:貸借対照表)

地方創生の先進事例を創出する仲間を求めています。

木頭での地方創生活動では、今日まで約10年かけて仲間と共に事業を育ててきました。これまでは事業会社それぞれがまずは事業を立ち上げ、提供価値の最大化に向けて取り組むというフェーズでしたが、これからは第二フェーズに入るタイミングとなります。

つまり、各事業会社を支える存在であるKITO DESIGN HOLDINGSを中心として、グループ全体の総合力を上げていく段階です。事業会社間の連携を強化していくにあたり、よりレベルの高い仕組みづくりも求められますし、組織事情に合わせて人事制度・評価制度などについても構築していく必要があると考えています。

また、採用については、さらに力を入れて取り組んでいきます。木頭エリアは、徳島市から車で約2時間半という地域ですが、車で30分の場所に大きな病院があり、エリア内には「未来コンビニ」や農協があり普段の買い物には困りません。週末には高知や徳島の中心地まで車でショッピングに出かけることができます。

地域のこども園や小中一貫校「木頭学園」もあり、教育環境もしっかりと整備されています。ただ、住居の面では町営住宅や空き家などが中心になっており、せっかく弊社の取組みに興味を持っていただいても、住環境の面で決断ができず、採用に至らないケースもありました。皆さんに安心して生活していただけるような環境整備のため、来年中には社宅として利用できる新築アパートや新築一戸建てを木頭に建設する予定です。

最後に、これまで力を合わせて地方活性のための土台を創ってきたおかげで、それぞれの事業モデルも徐々に確立されてきました。これからはさらなる事業成長や価値の最大化を進め、グループ会社や行政・民間とのシナジーを創造するフェーズとなります。

当社では様々なバックグラウンドを持ち、人種も多様な社員が働いています。地方創生の先進事例を創出するべく未来をデザインし、時に冷静に、時に熱く、一緒に汗をかける仲間を求めています。

編集後記

チーフコンサルタント
吉津 雅之

今回のインタビューでは、藤田社長の故郷・木頭に対する想いや今後の展望について伺いました。個人としての想い・エネルギーの強さに加えて、経営者として中長期的な視点に立って経営をデザインされていることに大変感銘を受けました。また、「3世代で暮らす価値」についても、私自身とても共感することが多かったです。約10年かけて事業の土台を築き、これから第二フェーズを迎えるKITO DESIGN HOLDINGS。四国・徳島から地方創生の先進事例を創出するチャレンジに今後も注目です。

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