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独自技術の「超音波霧化分離技術」で挑む、脱炭素に向けた新たな未来。

ナノミストテクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 松浦 一雄

更新日:2023年1月18日

1962年、徳島県最古の酒蔵である本家松浦酒造(1804年創業)に生まれる。1987年、山梨大学大学院を修了後、大手酒造メーカーの総合研究所へ入所。1996年には大阪大学大学院の博士課程を修了。1997年、株式会社 本家松浦酒造場へ入社。2002年、超音波醸造所有限会社(現:ナノミストテクノロジーズ株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

液体の成分を効率よく分離・濃縮する超音波霧化分離技術。

ナノミストテクノロジーズ株式会社は、超音波霧化分離装置を開発・製造するメーカーです。当社のコアテクノロジーは、超音波霧化分離技術(特許取得済)で、対象とする液体に100~200Vの電源を用いて発生させた超音波を照射すると、数ナノメートル〜数十マイクロメートルという極小サイズの霧(ミスト)が発生します。

液体の中に複数の成分が混合している場合、ミストは一様に発生するわけではありません。すぐ霧になる成分もあれば、時間がかかる成分もありますし、軽くて細かい霧になる成分もあれば、重くて大きい霧になる場合もあります。成分の違いによって生じる霧が異なるため、混合溶液から特定の成分だけを効率よく分離し、濃縮・生成することが可能なのです。

この超音波霧化分離技術が今、さまざまな業界の企業から興味をお持ちいただいています。例えば、食品業界では食材の香りを濃くしたいというニーズが常にあります。従来は蒸留装置を用いるのですが、蒸留装置は加熱が必要なので、どうしても香りの質が変わってしまいます。また、別に膜を使う方法もありますが、成分が膜を透過する段階で、香りを減殺してしまう弱点があります。

しかし、超音波霧化分離技術であれば熱は発生しませんし、成分の損失もありません。狙った成分だけを濃縮できるので、食品の香りを引き出すのにうってつけなのです。

ただ、超音波霧化分離技術にも弱みはあります。粘性の高い、ドロドロした液体からはミストを発生させることができません。逆にいうと、それ以外なら、原理的にはどんな液体でも分離・濃縮が可能です。私がこの技術に取り組んで20年以上になりますが、改善を繰り返し、ミスト発生の効率も上がってきました。おかげで、多くの業界から注目されるようになりました。

酒税法の壁。挫折をバネに新たな分野への挑戦。

私は実家が酒蔵を営んでおり、最初の就職先は大手酒造メーカーの研究所でした。酒造業界では、エタノールの分離・濃縮に蒸留装置を使います。これは1800年代に開発されたカフェ式蒸留器を原型としており、技術や素材の改善は行われたものの、基本原理はほとんど変わりません。もっと効率の良い道はないかと探すうちに、ミストという方法を発案したのです。

その後、酒造メーカーを退職し、実家の酒蔵に戻ってからもミストの研究を続けました。そして、この技術を基にして作った日本酒を販売すると、大きな評判となりました。ところが、酒税法の影響で、このお酒が2006年から販売できなくなってしまいました。

苦労して作りあげた商品でしたが、法律の壁があり売れなくなってしまう理不尽さに憤りを覚えました。それであれば、酒税法などの縛りのない分野でやってやろうと、他業界に転用する研究を始めたのです。

しかし、ここからが本当に大変でした。自前で装置を作るには、機械工学や制御工学など、これまで縁のなかった知識を身につける必要がありました。機械設計ができるようになるまでは、苦労もしましたし、失敗も数え切れません。

私にとって大きなハードルでしたが、自分で発見した超音波霧化分離技術を何とか形にしようと、歯を食いしばりました。そして、多くの失敗を経て、機械設計や制御の知識を重ねることができ、装置の精度もどんどん上がっていきました。

超音波霧化分離技術のさらなる普及に向けて、装置の標準化に注力。

これまでは、いろんな業界のお客さまから課題を聞き、解決に適した超音波霧化分離装置を開発してきました。開発の流れとしては、試験を実施し、精度を見てカスタマイズを加え、完成品を提供するという流れで事業を進めてきました。おかげさまで、今では大型の装置を納入できるだけの技術力を確立してきました。

ただ、多くのお客さまからの要望に対応できるだけの開発工数を確保できていないのが現状です。そのため、この知見を基盤に、装置の標準化を図ろうと考えています。ベース部分は共通して、開発案件の特殊性に応じて柔軟にカスタマイズする、という計画です。これにより、今まで以上にお客さまのオーダーに応えられるようにしていきます。

また、食品、化学、医薬、排水処理など、分野は違っても、依頼内容の課題感は近い部分があります。これまでは個別対応でしたが、標準化によってスピード・コストの両面でお客さまにメリットを提供できるようにしていきます。そうすることで、超音波霧化分離技術の普及スピードを上げていきたいと思います。

「脱炭素」という大きなテーマに向き合える技術。

現在は「食品」や「排水処理」の分野に注力して取り組んでいますが、可能性を強く感じているテーマが「脱炭素」です。現在もさまざまな分野で蒸留装置が用いられており、化石燃料を燃やし、スチームを作って温めています。スチームを作る過程で多くのCO2を排出していますが、超音波霧化分離装置は一般的な電源で稼働できるため、CO2を大幅に削減できます。

また、大量の化石燃料を燃やす火力発電所では、CO2を分離・吸収するためにアミンという吸収液を用いています。ただ、アミンを用いる装置はかなり大がかりで、建設コストも莫大となります。しかも、吸収液は1回使うごとに廃棄する必要があり、ランニングコストもばかになりません。

そこで、超音波霧化分離技術を応用・展開することで、微細ミストによってCO2を吸収し、炭酸塩原料に置き換えることができます。加えて、ミスト発生のエネルギーには、火力発電所で大量に出る廃熱を利用することもできます。ミストが微細な分、表面積は莫大になるため、大がかりな設備も不要となり、建設コスト・ランニングコストも低く抑えることができます。

この超音波霧化分離技術を応用したカーボンリサイクルの研究は、2020年にNEDO委託事業に採択され、双日様・トクヤマ様と共同で行っています。カーボンリサイクル技術を確立できれば、CO2排出権取引という新たなビジネス領域にも参入できるのではないか、と考えています。これは技術面でも事業面でも、当社の大きな柱にしていきたいと思っています。

半導体業界・化学業界など、活躍のフィールドは大きい。

その他に、半導体分野にも可能性を感じています。半導体製造のプロセスでは、配線後のウエハを徹底的に洗浄します。洗浄液としてプロピルアルコールが用いられるのですが、一度使用したら廃棄となります。この洗浄液を霧化分離すると、有用成分だけ分離できるため、安価にリサイクルできるのです。

また、化学業界では蒸留装置が用いられていますが、その原型はすでに述べたカフェ式蒸留器です。超音波霧化分離装置を利用すると、使用エネルギーを3〜7割、CO2排出量を4〜8割削減できることが確認できています。

火力発電所における脱炭素という領域だけでも、市場規模は1,000億円に及びます。半導体・化学などの業界を加えると、さらに市場は拡大していきます。この市場を開拓して、いずれはIPOも実現したいと考えています。

新たな価値の創造に向けて。重要なのは、前向きな姿勢。

今後の事業成長においては、人材採用は最重要テーマとなります。弊社の取り組みに共感いただける方にどれだけジョインしてもらえるかで、今後のビジネスチャンスの広がり方も変わってくると思います。また、ご支援いただいているファンド構成も変わり、事業拡大に向けて採用を強化していきます。

現在は、超音波霧化分離装置の普及に向けて、装置の標準化を進め、量産化に対応できる体制構築を進めています。そのために、視野の広い人材を求めています。機械設計や電気設計の専門職はもちろんですが、工程全体を見渡してコントロールできる方、各所の複雑な動きを調整しながら量産化を実現する方、あるいはプロジェクト全体をマネジメントする方、そういう人材にジョインいただけると、事業がさらに加速すると考えています。

また、採用においては能力本位で考えているので、特に年齢などは気にしません。これまでのキャリアで得た知見を発揮したいという強い意欲を持つ人であれば大歓迎です。そして、私がなにより重視するのは、心の持ちようですね。どういうことに感動するのか。どんな失敗や成功を体験してきたか。それらの経験は、どのように自分の糧になっているか。

私だって数々の失敗をしてきたし、挫折もしました。でも、大事なのはそこから前を向けるかどうかです。常に意欲的な姿勢を持ち、新たな価値の創造に寄与したい。そう考える人の意欲を原動力として、独自技術で一緒に市場を開拓していきたいですね。

編集後記

チーフコンサルタント
吉津 雅之

今回のインタビューでは、松浦社長の技術への想い、事業に対するエネルギーの強さが非常に印象的でした。20年超をかけて取り組んできた独自技術であり、何としてもやり遂げるという技術者としての想いに感銘を受けました。

また、独自技術の普及に向けた装置の標準化はもちろんのこと、脱炭素に向けたカーボンリサイクル技術への応用展開にも注目しています。四国・徳島から挑戦を続けるナノミストテクノロジーズ、今後のさらなる成長が楽しみです。

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