調査から維持までのワンストップ体制を強みに徳島の社会インフラ充実に貢献。
株式会社環境防災
代表取締役社長 野上 和彦
1963年生まれ。高校まで福岡県北九州市で過ごし、大阪の大学に進学。大学卒業後、ゼネコンに就職して施工管理として建設現場を経験し、入社4年目の現場で構造検討・計算を担当。大学時代の卒業研究のテーマでもあった構造設計・計算に改めて触れることでその魅力が呼び覚まされた。また、生まれ育った地への社会貢献をしたいという気持ちもあって1990年、北九州市に本社を構える株式会社福山コンサルタントへ転職。念願の橋梁を中心とする構造物設計に従事する。2014年、グループ企業である株式会社環境防災の非常勤取締役に就任。2024年、代表取締役社長に就任。現在に至る。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
60年の歴史を持つ、地域に根ざした建設コンサルタント。
当社の創業は1964年。建設材料試験所として会社を創業し、材料試験を祖業に、地質調査事業、環境計量事業、補償事業、建コン事業など、部門・分野を一歩ずつ拡張し、地元に根ざして地域に貢献してきました。
2009年には、福岡市に本社を置き全国で事業を展開する建設コンサルタント、株式会社福山コンサルタント(以下、福山コンサル)のグループ企業に加わりました。
その後、同社がホールディングス体制に移行し、持株会社である株式会社FCホールディングスが設立されてからは、福山コンサルとともに当社も連結子会社の一つとなりました。
私は福山コンサルで、主に橋梁や構造物の構造計画・設計・維持管理に関わる業務に長く携わってきました。2014年からは非常勤取締役として株式会社環境防災に関わり始め、2024年に前社長の退任を受けて代表取締役社長に就任しました。
当初は、「環境防災も福山コンサルと同じ建設コンサルなので大きな差はないだろう」と考えていたものの、実際に入ってみると明確な違いを感じました。
福山コンサルは、交通計画・道路計画・都市計画、それに構造設計や環境調査などの建設コンサルタント業を主力事業としていました。一方、環境防災の場合、それぞれ規模は小さいのですが、部門、分野、商材がとても多彩だったのです。
事業規模は異なりますが、種類が多品目でビジネスモデルが大きく異なります。また、顧客の約4割が民間企業というのも福山コンサルとは大きく異なる点でした。
品質の確保と迅速な対応をしなければ、お客さまは定着してくれません。そんな中、約60年の歴史を刻んでこられたのは、時代に応じて遷移する社内ニーズへの柔軟な対応を行うことで環境防災が地域の期待に応え続けているからと言えるでしょう。
幅広い領域の提案をワンストップでできることが、大きな強み。
環境防災の事業は大きく「環境」と「防災」分野に分かれます。
「環境」については、水質調査や土壌調査、最近でいうとアスベストの分析まで手がけています。徳島はもちろん四国まで見渡しても、この分野に注力している同業他社は多くないかと思います。
「防災」分野での長所は、「地域をよく知っている」ということです。当社には現場で地質・土質調査を行うスタッフが在籍しています。現地で集めた基礎データを分析し、地盤の特性や地すべりのリスクを適切に提案できます。
これらの地質・土質調査を専門業者に委託する建設コンサルも多いのですが、当社の場合は調査から設計、提案、維持保全まで一貫して提供できるわけです。
このワンストップ体制は環境防災の競合優位性と言えます。ただ、社員自身には、技術・分野連携の強みを積極的に推進する取り組みが十分に浸透していない気がしています。
そのため、社員にはニーズがあれば既成概念に捉われずに「柔軟な発想でアプローチしていこう」とよく話しています。
調査や設計を行う際、お客さまから資料をお借りするのですが、「これでは十分ではない」とか、「この調査も行えば設計がもっと確かなものになります」、「もっと経済性に優位な方法を導けます」といった提案をコンサルタントとしてするべきで、お客さまからもそれを期待されているのです。
環境防災は地元に根ざし、地域の人々に育てられて発展してきた会社です。幅の広い提案で徳島地域にしっかり還元していくというのが、事業推進における大きなテーマです。
既存事業の深堀りと新規分野の開拓に注力。
自治体の建設予算などを見ると横ばいで、大きく下がっているわけではありません。しかし、技術者の単価アップや資材コストの上昇、あるいは全国大手との技術競争など、受注環境が厳しくなっているのは確かです。
そんな中、業績を着実に上げていくためには、第一に既存事業の深堀りが不可欠です。環境や防災など、それぞれの分野で既存顧客へのサービスをもっと深めていきたいと考えています。
第二に必要なのが、新規・成長分野の開拓です。アスベスト関連もそうですが、法規制など新たな動きに対応する環境調査などを展開できるよう準備しなければなりません。
さらに、それぞれの事業の質を高めるには、当社にない強みを持つ他社とのアライアンスも積極的に進めたいと思います。そのための課題が人材です。
一人の生産力が劇的にアップすることはありません。生産力を向上させるには、新規卒業者の採用はもとより技術力を持ったキャリア人材を仲間に加えることと、無駄な作業を削減することが重要です。
業務効率化は社員それぞれのパフォーマンス最大化につながります。現状で1週間かかるプロセスが、設備を効率的に用いることによって1日で済むようになるなら、社員は自己研鑽の時間にも充てられますし、生産力は格段にアップして利益も増えます。
利益の最大化は次の投資を生み、さらなる業務の効率化、すなわち生産力のアップに直結します。私はこのことを繰り返して社員に伝えているので、利益と業務効率化の重要性は社員の間に少しずつ浸透してきたように感じます。
三つの想像力が、お客さまの課題を解決する。
私は社員によく「三つの想像力を大事にしてほしい」と言っています。それは「対人的な想像力」「独創的な想像力」「未来的な想像力」です。
「対人的な想像力」とは、相手の立場、考え、事業課題などをきちんと把握すること。商談においても、お客さまが思っていることのすべてを言葉にするとは限りません。
会話の行間や、表情、心理など、相手の気持ちを推し量る。そういった点を理解した上で提案を行うと「環境防災さんはわかってくれている」と信頼につながります。
「独創的な想像力」とは、自分なりの知見や工夫、アイデアを提案に活かすこと。これまでの経験だけでなく、そこから来るさまざまな発想を活かしてほしいということです。
そして「未来的な想像力」とは、この先の社会情勢がどのように変わるのか、提案によって未来がどうなるか、将来のどんな変化に対応できるのか。そうした未来の姿まで見据える想像力のことです。
建設コンサルの仕事は、お客さまや年度が違えば、諸条件も変わるし要望も対応の仕方も異なります。まったく同じ案件は存在しません。
答えは一つではなく、その時の状況や課題に合わせた解決策を、お客さまと一緒になって創っていく必要があるのです。
「以前はこうしました」は通用せず、「なぜそうなのか」常に根拠や理由が問われます。相手の要望や条件を把握し、詳細に調査・分析した上で、「こういう理由があるからこうなんだ」と提示しなければなりません。
「他にいくつも選択肢はあるけれど、経済性・環境面・地元の要望といったさまざまな諸条件を照らし合わせるとこのプランがいい」といった論理的な提案を重ねて信頼を得ることで「次もまた一緒にやりたい」と言われることが増えていきます。
「そのために想像力を働かせなさい。相手は何を悩み、何を要求しているかをしっかりつかみなさい」と伝えています。
いくら技術があっても、なぜその技術が悩みの解決につながるのかという論理がなければ、課題の解決はできません。
教育や社内制度をさらに充実させていく。
技術を深堀りするには、教育が大切になってきます。また、技術的な業務を行うには資格の有無も重視されるため、この点もしっかり投資していきます。
福山コンサルが実施している勉強会の題材をWebで共有して勉強会を開催するのも、そうした取り組みの一つです。
また、ベテラン技術者の経験や知識を若手に伝承するため、一緒に図面や調査結果を見ながら、どのように分析、判断し、現場に応用するのかを実地で学ばせる「業務カンファレンス・レビュー」を実行、実践しています。
実際の図面や調査結果を見ると、どういった情報が不足していて、どんな調査を提案すべきか、具体的に議論できます。
特に国の事業である公募型提案については、行政案件の経験者も含めて一つのレビューに7~8人が参加し、「業務上の課題はなにか」、「この提案が必要ではないか」、「別の良い手法や手段はないか」などと意見を交換します。
また社長就任以来、私は当社で働く全従業員と面談を実施しました。単なる愚痴でもいいので何でも教えてほしい、と従業員の本音に耳を傾けました。それらを整理し、毎月1回の幹部会議で議題にあげ、担当を決めて対応にあたっています。
給与、待遇、休日や、有給休暇の取得、結婚休暇の期間、さらには手続きの簡易化といった要望まで、さまざまな声が上がっています。これらは社内規定の改定も含め、「早急に実施できるものはすぐにでもやろう」と幹部と共有しています。
現在、その要望について多くの改善を実行し、社員の満足度の向上に向けて継続的に推進しています。
キャリア人材の存在が、技術力アップに直結する。
技術力のアップに向けて、キャリア採用も推進していきたいと思います。専門的な技術を経験されたU・Iターン層、首都圏や近畿圏などの第一線で働いてきた経験者が転職してくれれば、即戦力として活躍できます。
防災分野、環境分野いずれにおいても、構造設計、道路設計などの技術者は大歓迎です。また、営業経験者も求めています。地元を中心とする事業には、こまめで地道な営業活動が欠かせません。
単にお客さまを訪問するだけではなく、「そのエリアでどのようなニーズが発生しているか」、「どんな技術を求められているか」といったマーケティングのような分析が営業の第一歩だと考えています。
また経理、総務など管理系の人材も強化したいと考えています。特に決算に関わったことのある方は、大いに力を奮ってもらえるでしょう。
徳島地域のインフラの充実に貢献していくには、さらなるレベルアップが欠かせません。ぜひあなたの経験や知見を地域発展のために活かしてください。