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水産用ワクチンからクマスプレーまで。生命を科学する社会的使命。
バイオ科学株式会社
経営戦略室 取締役 中村 翼
大学卒業後、共済組織にて金融実務に従事した後、国際組織のシンガポール事務所代表に就任。アジア太平洋全域の小売・流通業における経営支援を統括する。その後、日系不動産デベロッパーやインフラ企業のシンガポール法人代表などを歴任。東南・南アジアでのM&Aや現地上場企業の経営再建、ASEAN全域の事業基盤構築を牽引し、グローバルな経営手腕を発揮する。2019年に地元・徳島へUターンし、内装事業会社の取締役を経て、2023年よりバイオ科学株式会社に参画。当初はエグゼクティブアドバイザーとしてM&A等の特命案件に取り組み、現在は取締役経営戦略室長として、部門横断の重要プロジェクトや管理部門の最適化を指揮している。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
「水産×医薬」のパイオニアとしての自負。

バイオ科学は徳島県阿南市に本社を置く、創業43年を迎える企業です。現会長が何もなかったこの地に工場を建てたのが始まりでした。
私たちが一貫して取り組んできたのは、水産養殖の課題解決です。1983年の創業当時、養殖業界には「魚を大きくするには単に餌(栄養)を与えればいい」という考えが主流でしたが、会長はそこに科学のメスを入れました。
魚種ごとに必要な栄養素やビタミン量をデータに基づき正確に割り出し、最適な栄養剤を提供し始めたのです。これが、私たちのフィロソフィーである「生命を科学する」の原点です。おかげさまで業界内では知られる存在となっていきました。
私たちは本質的な課題解決を目指して、常に進化を遂げてきました。まずは健康な魚を育てる栄養剤。そこから発展して、病気になった魚に投与する医薬品、さらには魚の病気を防ぐためのワクチンの開発と、常に業界の先駆者として歩んできました。
多くの競合他社がいる中で、私たちが業界の先頭を走り続けてこられたのは、徹底的に科学的根拠とデータに基づいて製品を作る姿勢を貫いてきたからです。
今では養殖魚の健康を守り、最終的にそれを口にする人の健康までを見据える重要な役割を担うようになりました。
阿南という地方の一拠点から、日本の、そして世界の食文化を支える。このニッチながらも非常に責任のある分野で、私たちは40年以上にわたって信頼を積み重ねてきました。
魚に与えたものが巡り巡って私たちの食につながるからこそ、妥協は一切許されません。一次産業の裏方として、いかに高品質で安全なものを提供し続けられるか。その誇りがバイオ科学という会社の根底には流れているのです。
「誰もやらないこと」を極める。
水産用ワクチンの世界は非常にハードルが高い領域です。製品化には高度な培養技術と、農林水産省の厳しい審査をクリアするための数年単位の時間、そして莫大な投資が必要です。
現在、この分野で私たちが競合するのは業界トップの企業を含め、わずか数社。私たちはブリやタイといった主要な養殖魚種において、非常に高いシェアを誇っています。
病原ウイルスや病原菌が型を変えて次々と現れる「いたちごっこ」のような状況下で、いかに早く効果的なワクチンを開発できるか。そこには技術力だけでなく、本質的な課題を深掘りし続ける忍耐力と信念が求められます。
その象徴的な製品の一つが、特定成分に関しては世界で初めて正式承認を受けた魚用麻酔剤「バイオネンネ(R)」です。養殖現場では、魚にワクチンを打つ際に魚が暴れて魚や人間が傷つかないよう使い勝手の良い麻酔剤が必要となります。
これまで、この成分は魚への負荷が小さく麻酔効果も高いことが知られていましたが、正式に動物用医薬品として承認された製品は存在していませんでした。
養殖業者の作業効率や養殖魚への負担、食の安全性の観点などから必要性は高く、「この状態を変えたい!」という社員の強い想いから始まったこのプロジェクトは、構想から承認までに20年という歳月を要しました。
動物用医薬品の承認を受けるためには麻酔効果だけではなく、魚への安全性やそれを食べる人間への安全まで考えなくてはなりません。
技術的に可能であっても、採算や手間の面から他社が手を出さない。そんな「誰もやらない、けれど社会に必要なこと」を真っ当にやり遂げるのがバイオ科学の真骨頂です。
また、畜産分野でも独自の存在感を示しています。牛の胃で分解されずに小腸まで届くバイパス製剤「乳肝(R)(ミルカン)」は、複数のアミノ酸とビタミンをコーティングする特許技術を駆使した製品です。
私たちはさらに、牧場ごとの細かいニーズに合わせたカスタマイズにも対応しています。数百種類の中からいくつかの原料を組み合わせ、特定の牧場専用の「中村ミックス」といった少量多品種の製品を、手間を惜しまず作り上げる。
この現場主義に基づいた徹底的な寄り添いこそが、私たちの最大の武器となっています。
100億円宣言と、グローバル展開。

現在、私たちは中期経営計画として2030年までに単体売上高100億円以上、グループ連結で300億円以上という野心的な目標に向かって突き進んでいます。
国内市場が人口減少で縮小する中、この成長を支える柱となるのがグローバル展開です。私たちの製品力はすでに世界に通用するレベルにあります。
先日、インドの現地企業に出資し関係会社化しましたが、これは世界市場への本格進出に向けた重要な一歩です。
他にもアメリカ、中国、東南アジア、さらにはアフリカなど、世界中で私たちの栄養剤や医薬品のニーズが高まっています。
このグローバル戦略を加速させるため、2026年1月、東京に「Global Innovation Office」を開設し、各国の基準に合わせた製品展開や国内外の企業とのパートナーシップの構築を進めています。
また、グループ会社におけるシナジーの創出にも注力しています。例えば、機能性食品や化粧品開発を行うネイチャーライフ株式会社と、不要になったカイコの蛹から代替たんぱく源を製造するインド企業。
両社の提携により、カイコ成分を活用した新たなコスメの開発の可能性を探るなど、水産・畜産の枠を超えた「生命の科学」の形が次々と芽吹いています。
私が役員として合流した当初は、海外案件などの特命業務がメインでしたが、今は管理部門の最適化や部門横断のプロジェクトも指揮しています。
組織が大きくなっても、フットワークの軽さと、面白いと思ったことに即座に挑戦できる文化は守り抜きたいと思います。
2030年に100億円以上。これは決して夢物語ではありません。社員全員がこの目標を自分事として捉え、前向きに挑んでいます。
地方発のニッチトップ企業が世界規模のサプライチェーンを構築していく。そのダイナミズムを今まさに全社員で体感しているところです。
求めるのは未知の課題に挑み続ける自律型人材。
バイオ科学が求める人材。それは一言で言えば、変化を面白がれる人です。私たちの仕事は、決してデスクの上だけで完結するものではありません。
管理部であろうと役員であろうと、現場に行きます。生け簀で魚を触り、ワクチン接種を手伝う。牧場に行って酪農家さんの声を聞く。そうやって現場の声を拾い、何に困っているのかを肌で感じる。
その手触り感を大切にできる人でなければ、本当の意味で顧客のニーズに応える製品は生まれません。専門性も大切ですが、それ以上に「まずやってみる」という挑戦心と適応力を重視しています。
ユニークな例を挙げれば、最近話題になったクマスプレー「熊一目散(R)(くまいちもくさん)」の開発もそうです。もともとは食品用唐辛子の事業を引き継いだことがきっかけで、「この原料、他にも使い道があるのでは?」という発想からクマスプレーの開発が始まりました。
私たちは単に強力なスプレーを作ったのではありません。野生動物との共生という理念のもと、海外の基準と比較しても遜色のない高品質な製品を本気で作り上げました。
一見、本業とは関係ないように見えますが、根底にあるのは「生命を科学し、社会の課題を解決する」という一貫したロジックです。こうしたアイデアを、科学的な根拠を持って形にできるのが私たちの面白さです。
また、私たちはダイバーシティも推進しており、外国人材の登用も積極的に行っています。理系の専門家集団の中に、全く異なるバックグラウンドを持つ海外のメンバーが混ざることで、化学反応が起きる。
私自身、シンガポールなどでグローバル経営に携わってきた「よそ者」ですが、そうした客観的な視点こそが組織を強くすると信じています。
自らをコントロールしながら、未知の課題に対して解決策を提示できる。そんな自律型人材が、これからのバイオ科学を牽引していくはずです。
徳島から、世界を変える仕事を。

私はシンガポールという成長の真っ只中にある国から徳島へ戻ってきましたが、地方には都会の大企業ではなかなか味わえない「自分たちがエンジンとなって動かしている」という確かな手応えを感じることがあります。
バイオ科学は今、まさに第2の創業期とも言える変革の中にあります。私たちが掲げるパーパス「世界の食料生産の課題を解決する」は、人類にとって避けては通れない普遍的なテーマです。
自分たちが作った栄養剤やワクチンが、世界中の食卓を支え、人々の健康に寄与している。その社会的意義は計り知れません。
徳島・阿南という場所は一見すると世界の中心からは遠いかもしれません。しかし、今はインターネットがあり、物流があり、志さえあればどこからでも世界へ挑むことができます。
むしろ、豊かな自然に囲まれたこの地だからこそ、生き物に対する愛着や、「生命を科学する」という命を敬う発想が深まるのだと感じています。
私たちは単に会社を大きくしたいわけではありません。唯一無二の強さを持った、尖った企業であり続けたい。自分の仕事の意義を模索している人にとって、ここは最高にエキサイティングなフィールドになるでしょう。
世界を舞台に、徳島から新しい価値を創り上げていきたい。バイオ科学の挑戦は、まだ始まったばかりです。