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新たなミッションを胸に、交通を軸とした豊かな街づくりの創造に挑む。

株式会社電脳交通
代表取締役CEO 近藤 洋祐

更新日:2025年9月17日

徳島市出身。米国でメジャーリーガーを志し、現地で4年間の挑戦を経て帰国。家業であるタクシー会社「吉野川タクシー」の経営に参画し、債務超過寸前の危機から会社をV字回復させる。2015年に株式会社電脳交通を創業し、クラウド型配車システムなど先進的なITサービスを展開することで、全国のタクシー事業者とともに業界全体のデジタルトランスフォーメーションを推進。2024年まで徳島大学客員教授として後進育成も努め、交通インフラの未来づくりと地方創生に尽力している。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

次の10年を支える新たな指針と、目指す未来。

2021年の前回インタビューから、もう4年が経ちます。当時はまだ私自身が全国を飛び回って、泥臭く全力で営業活動を行っていました。

当時は「徳島愛」を胸に、タクシー業界のDX推進という大きな課題に真正面から挑む地方発のチャレンジャーでしたが、あの頃お話しした未来が現実のものとなり、さらにその先へと進んでいます。

この4年間で電脳交通は大きく、そして深く進化しました。累計の資金調達額は約52億円に達し、仲間も200名を超えました。しかし、これは単なる規模の拡大ではありません。

私たちは自らの存在意義を問い直し、今年「第二創業期」への突入を宣言しました。その象徴として、新たに策定したミッション・ビジョン・バリューとコーポレートアイデンティティ、そして私たちの哲学そのものを言語化したステートメントを発表しています。

特にステートメントに込めた想いは強いです。「運転席からは日本がよく見える」という一文から始まるこのメッセージの主語は私たち電脳交通ではなく、タクシーの乗務員です。

私たちの原点が、祖父から受け継いだ徳島の小さなタクシー会社にあることは、今も昔も変わりません。

その運転席から見える景色、バックミラー越しに交わされる会話、お年寄りや妊婦さんといったタクシーがなければ生活できない方々の存在。それこそが私たちの事業の原点であり、進むべき道を照らす光だと考えています。

この哲学は、「交通業界へ、革新を。そして社会と企業を支え、未来の安全と信頼に貢献する」という、新たなミッションにも繋がっています。

2021年当時は、タクシー事業者の課題を解決する「サービス提供者」という意識が強かったのですが、今は違います。

私たちは業界内外の多様なプレイヤーを繋ぐ架け橋となり、交通を軸としたビジネスを進化させながら、それを社会全体にひらいてゆく。そんな「エコシステムの担い手」を目指しています。

この自己認識の大きな変化こそが、私たちが第二創業と呼ぶものの核心です。

業界の共通OSを構築し、交通格差のない社会を創る。

第二創業を象徴する具体的な取り組みが、オープンプラットフォーム戦略である「DSコネクト」です。2021年までの私たちは、自社開発のクラウド型配車システム「DS」を一社でも多くのタクシー事業者に届け、業務を効率化してもらうことに注力してきました。

しかし、この数年で市場は激変しています。特にお客さまがタクシーを呼ぶ手段として、電話だけでなく、さまざまな配車アプリを使うことが当たり前になりました。その結果、乗務員さんの車内には、各社のアプリを操作するためのタブレットが何台も並ぶという事態が起きています。

これは非効率ですし、何より運転中の安全に関わります。この「複数タブレット問題」という、まさに運転席から見えた課題を解決するために、戦略を大きく転換しました。サービスを競い合うという発想ではなく、私たちがプラットフォームを築き、協働し合おうと。

「DSコネクト」は、私たちが提供するたった1台のタブレットで、昔ながらの電話による配車指示も、大手配車アプリからの注文も、すべて一元管理できる仕組みです。

この戦略の展望は単なるタクシー配車に留まりません。将来的には鉄道やバスといった他の交通機関との連携や、さらには自動運転車両の運行管理まで、このOS上でシームレスに繋いでいきたい。

地域住民の方々はもちろん、インバウンドの観光客の方々にとっても、移動に困ることのない社会を創る。そのための基盤が「DSコネクト」なのです。

トップランナーとしての誉れと、業界を背負っていく覚悟。

ありがたいことに私たちのクラウド型配車システムは、今や全国47都道府県、約600社、約22,000台のタクシーに導入いただき、クラウド型配車システムの領域では国内トップクラスのシェアを誇るまでになりました。

その立場になったからこそ、見える景色も、そして担うべき責任も変わってきています。最近、嬉しいことが二つありました。

一つは業界内で同様の取り組みが増えて、私たちのサービスが一つの参考事例となっていることです。

プロダクト開発においては、表面的な機能や形を参考にされることもあるかもしれません。しかし、私たちが10年かけて現場の声に真摯に向き合い、年間150回以上の改善を積み重ねてきた姿勢や事業者の皆さまとの信頼関係、そして、それを支える思想や在り方は簡単に再現できるものではありません。

ですから、仮に類似の動きが見られても必要以上に意識することはないと思っています。これまで通り、私たちは私たちの信じる価値観と現場主義を大切にしながら、堂々と前に進んでいきたいと考えています。

もう一つ嬉しかったのは、東京の大手企業からも正式に競合の一社として意識されるようになってきたことです。

かつては「地方ベンチャー」という位置づけにとどまっていたかもしれませんが、いまでは「本気で市場に挑んでいる存在」として見られるようになってきました。

これは、私たちの取り組みや姿勢が一定の評価を受け、業界の中で一歩ずつ信頼を積み重ねてきた結果だと感じており、身が引き締まるとともに素直に嬉しく思っています。

もちろん、それは同時に私たちが業界の未来に対してより大きな責任を担う立場になったということでもあります。その喜びと覚悟を胸に、これからも挑戦を続けていきます。

ITの枠を超え、ふるさと徳島の未来を盛り上げていく。

前回のインタビューでも「人流を基点とした街づくり」という話をしましたが、あの頃はまだ夢に近いビジョンでした。しかし、この4年でそれは具体的な実行フェーズへと移っています。

その最大の原動力が資金力と戦略性の獲得です。資金調達の面では、三菱商事株式会社やJR各社、日本郵便グループのJPインベストメント株式会社、そしてUber Technologies, Inc.といった、まさに社会インフラを担う企業群から累計で約52億円もの資金を調達しました。

今回の資金調達により、私たちはさらなるプロダクト開発・サービス拡充を加速させ、交通業界の革新、未来の安全と信頼の確立、そして交通を起点とした社会全体の可能性を拓いていきます。

また、同じ志を持つパートナーとの連携やM&Aの推進にも積極的に取り組み、業界全体の発展に貢献していきたいと考えています。

そして、私の究極の目標は徳島への「ふるさと還元」です。これまでに培った資金と経験を生まれ故郷の発展に注ぎ込むこと。それこそが、私たちのミッションの最終的な表現だと考えています。

私たちの事業はソフトウェアから始まりましたが、いまや交通を起点に地域の暮らしを支え、そして未来の徳島を切り拓く道へと確かに続いているのです。

変わらぬ想いと、これから出会う仲間たちへ。

これだけ会社のステージが変わっても、私の根っこにある想いは何も変わっていません。それは徳島という土地へのこだわりであり、運転席からの視点という事業の原点です。

その上で、これからの電脳交通をつくり上げていく仲間たちに求めるものは、2021年当時よりもさらに深くなっています。もちろんスキルは重要ですが、それ以上に「概念の次元で繋がれるかどうか」を大切にしています。

日々の戦術で意見が食い違うことはあっても、その上の「地域の交通インフラを守り、未来に繋いでいく」という社会課題の解決に向けた大きな目的で繋がっていれば、組織はブレません。

組織も200人規模になり、次のステージに進むために人事制度や育成の仕組みをさらにグレードアップさせていく必要があります。

これまで以上にプロフェッショナルな組織へと進化し、社員一人ひとりが成長を実感できる環境を整えていきたい。そのための投資は惜しみません。

私の野心は、この電脳交通を徳島や四国の若者たちの希望の星にすること。東京やシリコンバレーに行かなくても、「徳島に行けば、確かな成長体験ができる」と思ってもらえる会社にしていきたい。

私たちの新しいミッションの実現に向けて、この挑戦を心から楽しめる仲間と共に未来を創造していきたいですね。

編集後記

チーフコンサルタント
吉津 雅之

前回のインタビューから4年。近藤社長と電脳交通社は想像を遥かに超えるスピードで進化を遂げていると感じるインタビューとなりました。

業界の慣習という分厚い壁に風穴を開けてきたチャレンジャーは、いまや業界全体の未来をデザインするフロントランナーへと変貌を遂げています。

ステートメントにある「運転席からは日本がよく見える」という言葉が示すように、どれほど事業が拡大してビジョンが壮大になっても、その原点は常に現場にあり、一人ひとりの生活に寄り添うという揺るぎない決意が伝わってきました。

第二創業期を迎えた電脳交通社。今まさに、「地域社会の未来」そのものを創造しようとする挑戦が四国・徳島から始まっています。

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